「スーパーで買ういちごは、一体どうやって育っているんだろう?」
「あの小さな花が、どうしてあんなに甘くて大きないちごになるんだろう?」
私たちが日々丹精込めて育てているいちごは、皆さんが想像する以上に、長い時間と農家の深い愛情、そして緻密な技術が詰まっています。
苗を植え付けてから、真っ赤な宝石となってお客様の元に届くまで、いちごは半年以上の旅をします。
特に、「花が咲いてから収穫までの約50日間」は、甘さや形、香りを決める最も大切な時期です。この期間に、ハウスの温度・湿度・水をミリ単位でコントロールすることで、いちごは最高に美味しくなるよう成長します。
この記事では、普段なかなか知ることのできない、農家ならではの視点でいちごの成長サイクルやおいしさを引き出す裏側の工夫を徹底解説します。
読み終える頃には、あなたが手にする一粒のいちごが、農家の情熱と技術の結晶だと感じられ、きっといちごを見る目が変わるでしょう。ぜひ、当農園のいちごの秘密を知ってください。
いちごはどうやって育つの?成長の基本サイクル
私たちが美味しく甘いいちごをお届けする旅は、お客様が口にする半年以上前から始まっています。ここでは、いちごがどのように育ち、ハウスで実をつけるまでの基本的なサイクルをご紹介します。
苗づくり(育苗期)|親株から子株を育てる夏の準備
いちご栽培の最初のステップは、健康な「苗づくり」です。
いちごは種からではなく、親株から伸びる「ランナー(つる)」と呼ばれる茎で子株を増やします。この子株を切り離し、一つ一つポットで育てていくのが育苗期(初夏〜秋)です。
この時期にどれだけ健康で病気のない強い苗を選び、育てられるかが、その後の収穫量や甘さを左右する重要な鍵となります。
夏から秋にかけては、強い日差しによるストレスを防ぐための遮光や、病気を予防するための徹底した衛生管理が行われます。
定植(植えつけ)|9〜10月にハウスでの本格スタート
夏の終わりから秋(主に9月~10月)にかけて、育った子株をハウス内の畑や高設栽培のベッドに「定植(植えつけ)」します。
このとき、いちごが栄養をしっかり吸収できるように、事前に土づくりや培地(ベッド)の設置に細心の注意を払います。定植直後は、根をしっかりと張ることが重要です。
農家は、ハウス内の温度や水分を細かくコントロールし、いちごが新しい環境に馴染み、元気な根を伸ばせるよう丁寧に管理することで、実りの多いシーズンに向けた土台を築きます。
いちごの花が咲いてから収穫までの流れ:甘さと形の鍵を握る「受粉」と「着色」の期間
開花(11月〜)|ミツバチが受粉を助け、美しい形を作る
定植を終え、気温が下がり始める11月頃になると、いちごは白い可憐な花を咲かせ始めます。この開花(かいか)の工程は、その後のいちごの品質と形を左右する、最も大切な段階の一つです。
いちごの実は、この花の中心にある子房(しぼう)が肥大することでできます。
甘くきれいな形の実を収穫するためには、花に付いているたくさんのめしべのすべてに均等に花粉を付着させる「受粉(じゅぶん)」が必要です。
私たちが使用するのは、ハウスに導入されたミツバチの力です。ミツバチは効率よく花の間を飛び回り、自然に近い形で確実に受粉を行ってくれます。
均等に受粉が行われないと、実の一部だけが肥大せず、いびつな形になってしまうのです。
花の数、すなわち結実する実の数が、その後の収穫量に直結するため、農家はミツバチが活動しやすいよう、ハウス内の温度や湿度を細かく管理しています。これは、まさしくミツバチと農家の共同作業と言えます。
結実(果実形成)|受粉から約10日間で形づくられ、糖度と品質が決まる
ミツバチによる受粉が完了すると、白い花の中心部にある子房(しぼう)が膨らみ始め、結実(けつじつ)へと移行します。これは、花から小さな緑色の実へと変化していく段階です。
受粉が成功してから約10日ほどで、いちごの形が定まり始めます。この結実期は、その後のいちごの糖度(甘さ)や最終的な形を決める非常に重要な期間です。
この時期、農家はハウス内の環境管理に最大限の注意を払います。特に重要なのは温度と日照(日光)です。適切な温度が保たれないと、実が十分に肥大しなかったり、形がいびつになったりします。
また、十分な日光を浴びることで光合成が促進され、実に甘さの元となるデンプンがしっかりと蓄えられます。このデンプンが、後の成熟期に糖へと変化するため、ここでいかに多くのデンプンを蓄えられるかが、「美味しいいちご」を育てる鍵となります。
私たちは、細かな温度調整と日照時間の確保を通じて、一つ一つの実を丁寧に育てています。
いちごの色づき(成熟期)|いよいよ収穫へ!日光と低温が甘さを凝縮させる
いちごの結実期(果実形成)が終わると、いよいよ実が赤く色づく成熟期に入ります。この期間は、緑色だった実に蓄えられたデンプンが「糖」へと変化し、私たちが知る甘くて美味しそうないちごへと変わっていく、待ち遠しい時期です。
この成熟期において、冬の「低温」は甘さを引き出す重要な役割を果たします。
日中の暖かさで糖分を作り、夜間の低温でいちごの生育をゆっくりにすることで、実は糖を消費せずにギュッと凝縮させます。これが、冬から春にかけてのいちごが特に甘く、果肉が締まっている理由です。
そして、最も重要なのが「完熟タイミング」の見極めです。スーパーなどに並ぶ市場流通のいちごは、輸送時間を考慮して、少し早めに収穫されることがほとんどです。
しかし、農家直送の当園では、実にヘタの際までしっかりと赤みが回り、甘さがピークに達した完熟の状態を見極めてから収穫します。
この農家の勘と経験それこそが、お客様に最高の美味しさをお届けするための最後の決め手となります。
いちごの収穫(12月〜5月)|最高の甘さを味わう「朝どれ」のこだわり
成熟したいちごは、いよいよ収穫期を迎えます。一般的に、いちごの収穫期は12月から翌年の5月頃まで続きますが、この時期に「いつ収穫するか」が味の最終的な決め手となります。
当園が目指すのは、甘さがピークに達した「完熟」の状態です。完熟の見分け方は、果皮全体がヘタの付け根まで鮮やかな赤色に染まり、表面にツヤが出ていることです。
市場に出回るいちごは、輸送中に傷まないよう色づき切る前に収穫されることもありますが、農家直送の当園では、この完熟の瞬間を逃さずに収穫します。
そして、美味しさを最大限に保つためにこだわるのが「朝どれ出荷」です。いちごは夜間の低温で糖分を実に凝縮させます。そのため、早朝に収穫したばかりのいちごが最も鮮度が高く、甘さも香りも格別です。
当園では、この朝採れたばかりのいちごをその日のうちに選別し、当日中に発送する体制を徹底しています。
このスピードこそが、お客様に畑で味わうような鮮度と甘さをお届けするための、農家直送ならではのこだわりです。
温度・湿度・光の管理|甘さを育てる心地よい環境づくり
おいしいいちごを育てるためには、水をあげるだけでは足りません。
私たちは、いちごが一番気持ちよく過ごせるように、ハウスの中の「温度」「湿度」「光」をしっかりコントロールしています。
いちごが甘くなるために特に大切なのは、昼と夜の温度の差です。
- 昼間は、いちごが元気に育つように、ハウスの中を少し暖め(約25℃)にします。
この時期に、いちごは太陽の光を使って自分の栄養を作ります。
これが甘さのもとになります。 - 夜は、気温を下げて(約10℃くらい)いちごをゆっくり休ませます。
昼に作った甘い成分をしっかり実の中にため込むことで、ぎゅっと甘みの詰まったいちごになります。
また、ハウスの中が湿りすぎるとカビが生えやすくなるので、風を通して空気を入れ替えることも大切です。
光(太陽の光)も、いちごの味を決める大事なポイントです。
天気や季節によって光の当たり方は変わるので、ビニールの素材や角度を工夫して、いちごがちょうどよく光を浴びられるようにしています。
こうすることで、いちごの色はより赤く、香りや味もぐっとよくなるのです。
このように、ハウスの中の小さな環境づくりひとつひとつに気を配ることで、皆さんに「おいしい!」と感じてもらえるいちごが育ちます。
水やりと栄養管理|40年以上の経験が生み出す「甘さの技術」
いちごのおいしさを左右する大切な要素のひとつが、水やりと栄養(肥料)の管理です。
いちごはとてもデリケートで、水を多く与えれば実が水っぽくなり、逆に少なすぎると硬く、小さくなってしまいます。
一般的には、天気や気温に合わせて水やりの量を調整しますが、当園では 40年以上の栽培経験をもとに、さらに細かく状態を見極めています。
たとえば、葉の色やツヤ、実の張り具合、朝の湿気の強さなど、数字には表れない感覚的な情報も手がかりにして、毎日その日の「最適な水」に調整しています。
また、いちごの味を決めるのは水だけではありません。肥料の与え方もとても重要です。
中でも「窒素」の量は味に大きく影響し、窒素を多く与えすぎると葉ばかりが育ち、実の形が悪くなるなどの生理障害が起きます。
当園では、いちごの成長段階に合わせて窒素の量を細かく調整し、リン酸やカリウムなど他の栄養とのバランスをとりながら、味わいの濃い実を育てています。
こうした細かい管理の積み重ねが、「また食べたい!」と思っていただける甘くて香りのよいいちごにつながっています。
病害虫対策と衛生管理|安心と安全を守る日々の地道な努力
おいしいいちごを育てる上で、病気や害虫からいちごを守る「病害虫対策」と「衛生管理」は欠かせません。当農園では、お客様に安全なおいしいいちごをお届けするため、特別な工夫を日々積み重ねています。
私たちは、極力農薬の使用を減らすため、病気や害虫を「早期に発見し、早期に処分する」ことを徹底しています。
例えば、いちごの生育を脅かす代表的な病気に「炭疽病」や「灰色かび病」がありますが、これらは湿気が大好きです。そのため、ハウス内の湿度を適切に管理し、風通しを良くすることで、病原菌が繁殖しにくい環境を常に保っています。
また、ハウス全体の衛生管理も重要なポイントです。いちごを栽培するベッドや通路を常に清潔に保ち、病気の原因となる不要な葉や株はすぐに取り除いています。
これらの地道な作業は、病気の発生を未然に防ぎ、結果として健全で生命力のあるいちごを育てることにつながっています。
安心してお召し上がりいただけるいちご作りのために、私たちは目に見えない部分にもこだわっています。
季節で変わるいちごの育ち方:冬の寒さが生み出す特別な美味しさ
いちごは季節の気温変化に応じて、味わいや食感を大きく変化させます。ここでは、温度や日照時間の違いが、いちごの持つ個性や美味しさをどのように引き出しているのかを解説します。
冬いちご(12月〜3月)|寒さが甘さを凝縮!果肉が締まった贅沢な味わい
一般的にいちごの収穫が本格化する12月から3月にかけて収穫されるのが「冬いちご」です。この時期のいちごが特に美味しいとされるのは、ハウス栽培における「冬の低温」が大きく関係しています。
夜間の冷え込みが厳しい冬は、ハウスの温度を冷えすぎない程度に管理することでいちごの生育スピードを調整します。
日中に光合成で作られた糖分(甘み)は、夜間に通常は呼吸で消費されてしまいますが、低温環境ではこの消費が最小限に抑えられます。その結果、糖分が実にギュッと凝縮され、濃厚な甘さが生まれるのです。
また、低温下でじっくりと育つため、果肉の細胞が密になり、果肉が締まってしっかりとした食感になります。このハリのある食感も、冬いちごならではの魅力です。
寒い時期に育まれた、甘さが濃く、日持ちの良い贅沢な味わいをぜひお楽しみください。
春いちご(4月〜6月)|気温の上昇と共に生まれる香り豊かでジューシーな実
4月以降に収穫される「春いちご」は、冬のいちごとはひと味違った魅力があります。気温が上がり、日照時間が長くなる春は、いちごの生育環境が大きく変わります。
春になり暖かくなると、いちごは一気に成長スピードを上げます。この勢いのある成長により、実に水分と栄養がたっぷりと行き渡り、果肉はふっくらと柔らかく、非常にジューシーな食感になります。まるで口の中で水分が弾けるようなみずみずしさが特徴です。
また、暖かい環境は、いちごが持つ「香り成分」の生成を促します。そのため、パックを開けた瞬間に、華やかで甘い香りがふわっと広がるのも春いちごならではの魅力です。
甘さは冬いちごほど凝縮されてはいませんが、その分、爽やかな酸味とのバランスが絶妙です。
みずみずしく軽やかな美味しさが楽しめる春いちごは、ケーキやパフェなど、春のデザートに最も適していると言えるでしょう。
夏いちご(冷涼地・高地限定)|品種の工夫で一年中楽しめるさっぱりとした味
いちごの旬といえば冬から春ですが、実はケーキやスイーツなどで夏でもいちごが使われています。これが、特定の地域で栽培される「夏いちご」です。
通常のいちごの品種は、気温が高くなると花を咲かせたり実をつけたりすることが難しくなります。そのため、夏いちごは、北海道や標高の高い高原などの涼しい気候の地域に限定して栽培されます。
さらに、国産夏いちごとして「なつおとめ」や「サマーリリカル」など様々な品種が夏の暑さの中でも安定して収穫できるよう、品種改良が行われています。
これらの品種は、高温でも実をつけられる特性を持っています。
夏いちごは、冬春いちごに比べて酸味が強く、さっぱりとした爽やかな味わいが特徴です。この酸味があるおかげで、生クリームやチョコレートと一緒に加工しても風味がぼやけにくく、夏の暑い時期にぴったりの清涼感を提供してくれます。
これにより、パティシエや洋菓子店は一年中、美味しいいちごを安定して使用できるのです。
環境にやさしい栽培への取り組み:人と地球にやさしい農業を目指して
当農園では、ただ甘くておいしいいちごを育てるだけでなく、未来の自然環境を守り、お客様に心から安心していただけるための栽培方法を実践しています。
土耕栽培|自然の恵みを活かし、いちご本来の味を追求
いちごの栽培方法には、土を使う「土耕栽培」と、人工的な培地を使う「高設栽培」があります。当農園が採用している土耕栽培は、昔ながらの方法で、いちごを直接、畑の土壌で育てます。
この方法の最大のメリットは、土が持つ本来の力を最大限に引き出せることです。
土の中には、いちごの生育に必要な多様な微生物や天然のミネラルが豊富に含まれており、いちごはそこからじっくりと栄養を吸収して育ちます。これにより、複雑で濃厚ないちご本来の深みのある味が生まれると考えられています。
私たちは、化学肥料に頼りすぎず、有機質の堆肥などを利用して健康で元気な土づくりにこだわっています。
自然のサイクルを大切にした土耕栽培は、環境への負担が少なく、安心してお召し上がりいただける、生命力あふれる美味しさをお届けします。
環境にやさしい土耕栽培への取り組み:自然の力で育てる、安心のいちご
私たちのいちご農園では、昔ながらの「土の力」を活かす土耕栽培を軸に、地球にやさしい、ずっと続けられる生産方法に取り組んでいます。
土耕栽培は、その土地が元々持っているパワーや、土の中にいる小さな生き物(微生物)の働きを最大限に活かせます。そのため、化学的なものに頼りすぎない、自然に近い栽培ができるのが最大の魅力です。
私たちはこの土耕栽培の良さを活かし、環境への負担を減らしながら、品質の高いおいしいいちごを育てています。
畑の栄養源「土づくり」へのこだわり
まず最も大切なのは「土づくり」です。私たちは、毎年、腐葉土や堆肥(有機素材)を中心に畑に入れ、土の中の微生物が元気いっぱいに働ける環境を整えています。
微生物が豊かな土は、水はけや空気の通りが良くなり、いちごの根がしっかりと張るため、病気に強く健康ないちごの樹に育つのです。
また、畑の土を定期的にチェック(土壌分析)して、土の栄養状態をデータで確認しています。これにより、必要な分だけの肥料を与え、化学肥料を使いすぎないように徹底して管理しています。
環境負荷を減らし、自然の循環を活かす栽培
当農園では、自然の力を最大限に活かしながら土の健康を保つ「循環型の土づくり」を大切にしています。
特に、土の中に潜む病原菌を抑える方法として、化学薬剤に頼らず太陽の熱を利用する「太陽熱消毒」を積極的に採用しています。
真夏にビニールで土を覆い、自然エネルギーだけで土壌温度を高める昔ながらの方法で、環境負荷をほとんどかけないのが特徴です。
さらに、これまで育ててきたいちごの樹は病気の樹をのぞいた後、堆肥として再び土へ戻し、土壌微生物の活動を助ける役割も果たしています。
こうした有機物の循環により、土が本来持つ力を引き出し、化学肥料や農薬に依存しない持続可能な栽培へつながっています。
自然環境への負担を抑え、土の健康を守りながら育てたい 。その思いから、私たちは土耕栽培ならではの「循環型農業」を実践し、安心して食べていただけるいちご作りをこれからも追求していきます。
まとめ|いちごの育ち方を知ると、おいしさがもっと深まる
「苗から始まるいちごの旅」は、約半年以上にもわたる農家の情熱と技術の結晶です。
一輪の花が咲き、ミツバチに受粉してもらい、寒暖差の中でじっくりと甘さを蓄える。
そして、水やりや温度、肥料を緻密に管理し、病害虫から守る。
スーパーや直売所で私たちが手に取る1粒のいちごの背景には何ヶ月もの間、管理されてできあがった最高の1粒が届けられています。
ぜひこの記事を通して、「農家直送のいちご」の持つ安心感と美味しさを深く感じていただけたら幸いです。これからも、情熱を持って大切に育てた私たち自慢のいちごを、ぜひご賞味ください!

